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『トトロの住む家』≫宮崎駿さんの好きなものが詰まっている

トトロの住む家

トトロが喜んで住みそうな自然に囲まれた家
住む人の心が偲ばれる懐かしい家
郷愁の名画「となりのトトロ」の作者、宮崎駿が訪ね歩いて絵と文で綴る

『トトロの住む家』帯より

宮崎駿『トトロの住む家』

トトロの住む家

宮崎駿・著 写真=和田久士
『トトロの住む家』 朝日新聞社

この本は1991年初版の絵本のような本です。

実に素敵な家が7件、宮崎駿さんの文章とイラストと、その物件の実際の写真とが紹介されています。

これらの建物は今でもあるのでしょうか。この本はとても古いので、なんと27年前のものなので、あったらいいのになと思いつつ、むずかしいかもなあと思います。

建物を見るのはとても楽しいです。

こどものころ。

家の近くにとても広くて立派な住宅展示場があったので、何度か遊びに行ったことがあります。こどもだったのでそれがなにかわかっておらず、怒られもしなかったので、堂々と入っては素敵な家々に住んでる気持ちになって、とても楽しかった。

それから、車で通る道道に明治風の建物を見つけては、『あんな木枠のガラス戸と廊下のある家に住みたい。畳敷きの部屋に応接間を作って、洋風のソファセット置きたい』と考えてワクワクしていたものです。そのころ読むようになっていた夏目漱石の世界みたいなものをイメージしていたのだと思います。

今でもやっぱり建物を見るのは好きです。

トトロの住む家

障子と廊下、木枠のガラス戸。このイメージに憧れています。

駿さん(というふうにふだん敬意を込めてお呼びしているのですみません)はよくこういうふうな本の中で理想の家を描いていますが、それはだいたい『有機的な家』というふうに言えるのかなと思います。(『有機的=生物のからだのように、一つの中枢的な部分を中心にして、全体が関連の有る働きをする様子』新明解国語辞典

木々に囲まれた場所に建っている木造の家屋で、縁の下には生活の匂いが染み込んだ移植ゴテや古い調理器具、鉢などが無造作に突っ込んである。そこに住んでいる人を表すように、簡素で清潔。

トトロの主人公の家のあの和洋折衷の感じ、とても素敵ですよね。お父さんが仕事をする部屋だけが白塗りの洋風の建物で、あとは渋い日本家屋で。

この本の家屋は和洋折衷ではなく、だいたい昭和初期に建てられた日本家屋です。田舎に住む私にとっては、なんとなく都会的な感じがします。なんといっても、書斎があるのです。(ほんのりと、『高等遊民』なんて言葉も思い出します。)とても品が良く、同時に奥ゆかしい雰囲気があると感じさせる家々です。こういう家には、たしかにトトロも喜んで来てくれるかも。

住む方たちの語る家の来歴や、’91年まで大正や昭和初期に建てられた家をできる限りそのままにしている理由は、それぞれほんとうに様々です。駿さんの描写や組み立てのうまさもあって、ひとつひとつ、まるでしっとりと湿った静かな物語を読むような感触があります。

トトロの住む家

中にはほんとうの『知識人』であり、新聞の記事になったような高名な学者の方の家などもあったようですが、ここで家の話をする方々の慎ましさ、というか、なにも肩肘張ってない、人に語るためにしているのではない落ち着いた感じがとても気持ちが良い。

というふうに感じるのは、ここに添えられている駿さんの文章がひどく優しいから。
こういう家や、こういう家を維持しようと肩肘張らずに楽しんで暮らす人々を、ほんとうに好き(というよりは愛)なんだなあ、と伝わってくる穏やかな文章は、ご自身がそう語るように感傷的でさえあります。

それはふだん仕事について語っている駿さんや、この本にも少語られていますが、現代の日本人の暮らしや物の考え方を批評するときの駿さんの、あの徹底的な厳しさ、あの緻密さを思うと、すこし驚くくらい。

一番最初の家は、当時の駿さんが5年ほど憧れていたという杉並のお宅ですが、その最後の飾り気のない一文が、こういった家を訪れてその主人と語る駿さんの胸中を過不足なく表していると思います。その強い印象が、最後までずっとたなびいて、私の心もおなじ気持ちでいっぱいになるのです。

トトロの住む家

バラのお庭が見える木枠の窓はロマンチックで物語を感じます。

手を入れすぎていない庭の様子やわたしが子供の頃に夢に見ていたような応接セット、木枠のガラス窓が二方へ開いている頑固な家長の書斎、などなどすべてが理想のかたまりです。写真一枚一枚がまるで頭の中にあったかのように懐かしく慕わしい。いつまで見ていても飽きません。

駿さんの絵がまたいつものとおり味わい深い。こっそりとトトロもいたりして。どんなところに惹かれたか、ふむふむ、と手書き文字まで読むのが楽しいです。

あまりにもうつくしい世界のような気がして、今日もこの家たちが日本にまだあったらいいのにな、と思います。いまとなってはもう、私の頭の中の理想の家はいろいろな理由(昔と同じ資材がない、借景できるような環境ではない、など)で建てられないかもしれないから、この家たちがあると思って我慢したいのです。

そんなふうに、長い間の夢をこれにあてこんでもいいと思うほどにお気に入りの一冊です。こういう家を残したいと思う気持ち、住みたいと思う気持ちがある人なら、きっと楽しめる本です。

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